<気迫を胸に・25センバツ天理>/2 互いに補完、2人の主将 /奈良

高校野球の天理高校では、新チームが始動した。副将を置かず主将を2人にする体制で、永末峻也と赤埴幸輝がチームを引っ張る。

「ダブル主将」としてチームを引っ張る永末峻也(左)と赤埴幸輝=天理市の天理親里野球場で2025年1月8日午前10時36分、田辺泰裕撮影

夏の奈良大会準々決勝での「一生忘れられない」敗戦から一息つく間もなく、新チームは本格的に動き始めた。2カ月後には秋季近畿地区大会の県予選が始まる。敗戦の悔しさに浸っている余裕などなかった。

「主将はお前ら2人でやれ」――藤原忠理監督がそう声をかけたのは、新チームの練習が始まってから数日後のことだった。呼ばれたのは、永末峻也と赤埴幸輝(いずれも2年)。昨季から公式戦に出場し続け、新チームの内野と外野の要を担う2人だった。

副主将を置かず主将を2人にする体制は、順天堂大陸上部男子駅伝チーム(東京)やプロ野球の楽天などでは前例があるが「高校野球では聞いたことがない」(藤原監督)。創部以来初となる挑戦だった。「(昨季主将の)松本大和(3年)は責任を1人で背負い、苦しんでいた。高校生が1人でチームを背負うのは難しいところもある」。大学野球指導が長い藤原監督は高校生ならではの弱みを見抜き、それをカバーする体制を作った。中学時代にボーイズチームで主将を務めた経験がある赤埴は「何かあったときは2人で相談することができるので、負担は少ない」と語る。

2人はあらゆる意味で対照的な存在だ。赤埴は内野手として堅実なグラブさばきと足運びで出塁や進塁を阻む。永末は外野手として全体を見ながら、ピンチの際は強肩を生かして失点を防ぐ。性格も正反対。永末は練習でも積極的に声を出し、部内でもおしゃべりなムードメーカー。一方、赤埴は一歩引いたところからチーム全体に目を配り、自身のプレーで周囲を鼓舞するタイプだ。性格や守備位置の異なる2人だからこそ、互いを補いながらチームを引っ張ることができる。一見珍しい「主将2人」体制は、チームを最善の状態に導く妙手だった。

だが、主将が2人だからと言ってチームがいきなり順調に動き始めるわけではない。8月は苦難の連続だった。そもそも、新チームのメンバーで昨季から試合に出場していたのはわずか数人。実戦経験の豊富な選手と、そうでない選手の間で足並みの乱れが生じた。

練習の際にランニングやストレッチで声がそろわず、守備の中継プレーやボール回しではミスが連発。「野球というスポーツは、一つの細かいズレが結果的に大きなズレとなって表れることがある」という赤埴の言葉通りだった。そのズレが最も大きな形で表れたのは、8月の練習試合だった。約40試合を戦い、その半分で敗戦。昨季のチームと比べると、明らかに悪い成績だった。対戦相手は全国レベルの強豪ではなく「普通にやっていれば勝てるはずの相手」(下坊大陸=2年)。甲子園からは程遠い成績に、チームは危機感を募らせていった。

「お前らほんまに甲子園に行きたいんか。本気でそう思ってんのか」

8月中旬のミーティングで声を上げたのは、普段前に立って話す永末ではなく、寡黙なはずの赤埴だった。「天理に入ったからには、みんな甲子園に行きたいはず。でも、その気持ちがなかなか伝わってこなかった」

赤埴はチームの一人一人に甲子園への覚悟を問いただしていった。赤埴の目に宿った「気迫」は、全員に伝わっていった。東口瞬(2年)は「秋季大会も近く、とてもシビアな空気だった」と振り返りつつ「あの日からチームがうまくまとまり始めた」と語る。

「もう二度と負けたくない」。涙ながらにそう誓ってから1カ月。この日を境に、チームは「気迫」を胸に急速にまとまりをみせるようになる。【田辺泰裕】=つづく

次に読むべきもの

東亜大のエース藤井、12奪三振で完封勝利!全国大学野球選手権で圧巻の投球
大学野球

東亜大のエース藤井、12奪三振で完封勝利!全国大学野球選手権で圧巻の投球

東亜大のエース藤井が全日本大学野球選手権で12奪三振の完封勝利を収め、チームを勝利に導いた。

【大学野球】明大・大室亮満の緊急登板で劇的勝利!単独首位に躍進
大学野球

【大学野球】明大・大室亮満の緊急登板で劇的勝利!単独首位に躍進

明大の左腕・大室亮満が9回途中の緊急登板で無失点リリーフを決め、チームを単独首位に導いた。

東北福祉大・佐藤悠太の野手転向とキャリアハイの軌跡
大学野球

東北福祉大・佐藤悠太の野手転向とキャリアハイの軌跡

東北福祉大の佐藤悠太が野手転向を経てキャリアハイを達成したストーリー。彼の努力と成長を紹介。

全日本大学野球選手権で躍動した投手たち:桜井頼之介、中西聖輝、大矢琉晟の活躍
大学野球

全日本大学野球選手権で躍動した投手たち:桜井頼之介、中西聖輝、大矢琉晟の活躍

2025年全日本大学野球選手権で注目を集めた投手たちの活躍を紹介。桜井頼之介、中西聖輝、大矢琉晟らのピッチングに焦点を当てる。

阪神タイガースの魅力と歴史:石坂浩二が語る猛虎愛と大学野球の原点
大学野球

阪神タイガースの魅力と歴史:石坂浩二が語る猛虎愛と大学野球の原点

俳優・石坂浩二が阪神タイガースへの愛と大学野球の原点を語る。1985年の日本一やチームの魅力に迫る。

阪神タイガースの新星・森下翔太:今世紀最強ドラフト1位選手の軌跡
大学野球

阪神タイガースの新星・森下翔太:今世紀最強ドラフト1位選手の軌跡

阪神タイガースのドラフト1位選手・森下翔太の活躍と成長を詳しく紹介。今季の飛躍に期待が集まる。

オリックスの新たなエース・九里亜蓮:FA移籍で開花した鉄腕の軌跡
大学野球

オリックスの新たなエース・九里亜蓮:FA移籍で開花した鉄腕の軌跡

広島からオリックスにFA移籍した九里亜蓮が、新たなエースとしてチームを牽引。その緻密な投球スタイルとチームメートとの絆に迫る。

【大学野球】慶大、4季連続フレッシュトーナメント制覇!主将・大村昊澄の卓越したリーダーシップ
大学野球

【大学野球】慶大、4季連続フレッシュトーナメント制覇!主将・大村昊澄の卓越したリーダーシップ

慶大が4季連続でフレッシュトーナメントを制覇。主将・大村昊澄の卓越したリーダーシップが勝利の鍵となった。

【大学野球】青学大の連覇秘話:藤原夏暉主将が語るチームの絆と勝利への道
大学野球

【大学野球】青学大の連覇秘話:藤原夏暉主将が語るチームの絆と勝利への道

青学大が東都大学野球春季リーグ戦で5連覇を達成。藤原夏暉主将がチームの強さと勝利への秘訣を語る。

東北福祉大、7年ぶりの栄光!全日本大学野球選手権で4度目の優勝を飾る
大学野球

東北福祉大、7年ぶりの栄光!全日本大学野球選手権で4度目の優勝を飾る

東北福祉大が7年ぶりに全日本大学野球選手権で優勝。佐藤悠太の活躍と桜井頼之介の投球が勝利を導いた。

日本ウェルネススポーツ大の新鋭たちが躍動!甲子園経験者が新たな挑戦へ
大学野球

日本ウェルネススポーツ大の新鋭たちが躍動!甲子園経験者が新たな挑戦へ

日本ウェルネススポーツ大の新入生が公開され、甲子園経験者を含む新鋭たちが新たな挑戦に向けて準備を進めています。

長嶋茂雄と王貞治:大学野球史上最強のライバル物語
大学野球

長嶋茂雄と王貞治:大学野球史上最強のライバル物語

長嶋茂雄と王貞治の大学野球におけるライバル関係を深掘り。二人の記録とエピソードを紹介。

山県秀、プロ初本塁打から一夜明けのスタメン昇格!大学野球のライバルから得た助言とは?
大学野球

山県秀、プロ初本塁打から一夜明けのスタメン昇格!大学野球のライバルから得た助言とは?

日本ハムの山県秀がプロ初本塁打を放ち、打順を2つ上げてスタメンに。大学野球時代のライバルからの助言も明かす。

与田剛氏の野球人生の転機:社会人時代からドラフト1位までの軌跡
大学野球

与田剛氏の野球人生の転機:社会人時代からドラフト1位までの軌跡

元中日監督与田剛氏が、社会人時代からドラフト1位に上り詰めた野球人生の転機と軌跡を振り返る。

【大学野球】東北福祉大が7年ぶりの日本一!山路監督の指導力と学生たちの努力が実る
大学野球

【大学野球】東北福祉大が7年ぶりの日本一!山路監督の指導力と学生たちの努力が実る

東北福祉大が7年ぶりに全日本大学選手権で日本一に輝いた。山路監督の指導力と学生たちの努力が実を結んだ瞬間をレポート。

Load More

We use essential cookies to make our site work. With your consent, we may also use non-essential cookies to improve user experience and analyze website traffic. By clicking "Accept," you agree to our website's cookie use as described in our Cookie Policy.