大鵬の魂を受け継ぐ大嶽部屋 継承に懸けた親方の覚悟と相撲道の未来
大嶽部屋の代替わりを軸に、相撲部屋の歴史的価値と継承者の責任を考察。大鵬道場の精神を継承する部屋の未来像と、相撲界における無形資産の重要性に迫る。

歴史に根差す部屋の系譜
大嶽部屋の源流は昭和44年、69連勝の偉業を成し遂げた大横綱・大鵬が創設した大鵬部屋に遡る。平成16年に貴闘力親方へ継承され名称変更後も、「大鵬の教えを守り抜く」という理念は脈々と受け継がれてきた。現在は大鵬の孫弟子にあたる王鵬・夢道鵬・納谷の三兄弟を中心に、9人の力士が稽古に励んでいる。
継承劇の舞台裏
2025年9月の秋場所後、片男波部屋の熊ケ谷親方が年寄「大嶽」を襲名。定年を迎える現親方は「熊ケ谷」として再雇用され、若手育成に専念する。関係者によれば、「他部屋吸収案も検討されたが、大鵬のDNAを絶やさぬよう粘り抜いた」という。
看板に込めた覚悟
部屋玄関に並ぶ「大鵬道場」の看板は、双葉山道場と並ぶ相撲界の聖地。現親方は継承拒否を2度も申し出た過去を明かしつつ、「師匠の懇願を断り切れなかった。この看板を守ることが生きる証」と語る。
無形資産の重み
会計上3000万円と評価される「のれん代」の本質は、老舗洋食店の味や信用と同様、数値化できない伝統の継承にある。部屋存続危機の際、大鵬自らが頭を下げて懇願したエピソードは、相撲文化の継承者たちの苦悩を象徴する。
次世代へのバトン
新体制では稽古場の改修計画が進行中。王鵬関は「大鵬おじいさんのビデオを研究し、現代に合った形で伝統を進化させたい」と意欲を燃やす。部屋継承は単なる組織変更ではなく、相撲道そのものの未来を賭けた挑戦だ。